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help リーダーに追加 RSS ホワイトカラー・エグゼンプション導入は時期尚早

<<   作成日時 : 2007/01/17 14:08   >>

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昨日(1月16日)、安倍首相は事務系労働者の残業代を免除するホワイトカラー・エグゼンプション(white-collar exemption)導入の見送りを表明しました。この制度は、労働市場が正しく機能し、自律的に働く環境が整っていれば正しく機能するものでしょう。しかし、受動的に働かざるを得ない現時点での労働市場の構造を考えると、ホワイトカラー・エグゼンプションは労働時間のさらなる延長という誤った方向に機能する危険性が高いと考えられます。
そこで今日は、ホワイトカラー・エグゼンプションを正しく機能させるために必要な背景を考察してみたいと思います。

1)ホワイトカラー・エグゼンプションの本来の狙いは何か?
ホワイトカラー・エグゼンプションの本来の趣旨は、時間ではなく成果で賃金を決定するというものです。
残業手当のある現行では労働時間の長短で賃金の多寡が決定するシステムになっています。しかし、仕事の効率うんぬんよりも時間の長短で評価する制度では、仕事の成果が上がっていなくても長時間働けば給料が上がるという矛盾が発生することになります。
そのような矛盾を解決するためには、ダラダラと長時間仕事をするのではなく、時間をやりくりして短時間で成果を上げた人に報いるべく、ただ労働時間が長い人ではなく仕事の効率性の高い人に手厚く報いる制度が必要になります。
そこで、矛盾の温床となる残業代を支払うのをやめ、時間ではなく成果で評価することを意図する制度、それがホワイトカラー・エグゼンプションであるわけです。
残業代がなくなれば、今までダラダラと仕事をしていた人に時間を効率的に使おうとするインセンティブが発生します。したがって、正しく機能すれば「労働時間がただ長いだけ」の人の労働時間が短くなることが期待されるわけです。

2)ホワイトカラー・エグゼンプションを正しく機能させる条件は?
ホワイトカラー・エグゼンプションを正しく機能させるには、いくつかの前提条件が必要です。
第一に、従業員の業務量が適正な水準に保たれているかということです。
この制度では、仕事を効率的にこなし、短時間で多くの成果を上げる生産性が高い人を評価の対象にします。ですから、極端なことを言えば「早く帰るのが優秀な労働者」なのです。もし従業員の業務量が過重であれば、心身の健康を維持できず効率も下がります。仕事が終わらないことで長時間労働を余儀なくされ、それこそ元の木阿弥です。ですから、労働時間の短縮という正しい方向に機能させるためには、従業員の業務量は標準的な労働者であれば十分こなせる量でなければなりません。
第二に、労働者が自律的に働ける環境があるかどうかです。
ホワイトカラー・エグゼンプションの下では、各労働者はプロとしてベストパフォーマンスができる環境を作り出さなければいけません。そのためには、時として自分に与えられた仕事を断り、業務量を調整することも必要になります。過重な業務量は、心身の負担を増大させ、生産性を低下させるからです。労働者自身で仕事を調節できる環境や、仕事を断っても不利にならない環境があることが必要です。
第三に、充実した転職市場が存在することです。
残業代が出ないのをいいことに、過重な業務を強いる企業では、労働者の生産性が上がらないのは明らかです。労働者はそのような企業を可及的速やかに退職し、より良いパフォーマンスが出来る企業に移らなければなりません。そのための受け皿である転職市場の整備が必要不可欠です。
したがって、ホワイトカラー・エグゼンプションが正しく機能するためには、労働者が「プロ」として自立し、企業とよりよい雇用契約が結べる環境が整うことが必要なのです。

3)現実にはホワイトカラー・エグゼンプションが正しく機能する条件は整っていない
しかし、現実に目を転じてみると、今の日本でそのような環境が整備されているとはとても言えません。
2000年以降、正社員の比重が下がり、今や3人に1人が非正社員というのが労働市場の現実です。その中で、正社員の業務量は増大し、深夜残業や無給の休日出勤も当たり前という「ブラック企業」も少なくありません。現状では、従業員の業務量が適正な水準に保たれているとは、とても言えません。
さらに、「長時間働くのが優秀」という価値観が根強く残っている状況で、それと正反対の「早く帰るのが優秀」という価値観が現場で受け入れられるかは甚だ疑問です。居残り残業が当たり前の風潮では、労働者がコンディション維持のために業務量を調整できる環境にないのは明らかです。労働者が自律的に働ける環境がないばかりか、自律的に働くのを阻害する要因が転がっているのが現状です。
おまけに、今の日本ではお世辞にも転職市場が充実しているとは言えません。劣悪な労働条件の会社を辞めて次の仕事がすぐに見つかるのは、せいぜい35歳までです。ホワイトカラー・エグゼンプションの対象になるであろう中高年層の転職市場は、依然として狭き門です。しかも、今は転職して給料が下がる人が少なくない「悪い雇用の流動化」の比率が高い状況にあります。このような状況では、待遇が劣悪な企業からの人材流出が進む筈もなく、労働市場が健全に機能する筈もありません。

こうして現実を見てみると、ホワイトカラー・エグゼンプションが誤った方向に働くのではないかという懸念は正しいと言わざるを得ません。正社員の業務量が過重で、自律的な働き方ができる環境もなく、転職市場も充実していない今の日本でこの制度を導入すれば、労働者には際限ない長時間労働と賃金の低下しかもたらされないでしょう。
つまり、今のままでは、ホワイトカラー・エグゼンプションは企業が総人件費を節約する手段にしかなり得ません。

以前、私は「プロフェッショナルでなければグローバル化の荒波に対峙できない」ことを1月9日の記事(http://tori-s.at.webry.info/200701/article_9.html)で書きました。もし、将来多くの労働者がプロとして自律的な働き方が出来る環境ができれば、いずれホワイトカラー・エグゼンプションのような制度が必要になるかも知れません。しかし、現時点でそのような環境にない以上、制度の導入はやはり時期尚早と言うべきなのでしょう。

(参考文献)
週刊エコノミスト2006年7月25日号「過労死大国」毎日新聞社。
週刊東洋経済2007年1月13日号「特集/雇用破壊」東洋経済新報社。

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
低レベルの書き込みにも暖かいコメントを頂きありがとうございました。「お気に入り」で読ませていただいております。「経済ネタ」をタイムリーに解説して下さるこのサイト ありがたいです。残念ながら難しいところはパスしながらですが・・そしてご意見のスタンスにも共感をおぼえます。NHKスペシャルの「ワーキングプア2」はご覧になられましたでしょうか?私は見ました。その時の三人のコメンティターの内橋克人さんの静かながら怒りのこもったコメントに心惹かれました。そして八代尚宏氏のコメントには「この人は本気でこれ言うてはるの!」と驚きましたがこれがトリクルダウンということなのですか?私にはうけいれることの出来ないスタンスです。「経済」も「政策」もリーダーの「人格」に負うものなのでしょうか?そんなことを感じました。「何が言いたいのか」分かり難くくてごめんなさい。
hmd
2007/01/18 19:39
hmdさん、ご愛読ありがとうございます。
NHKスペシャルは「ワーキングプア2」は残念ながら見てません。ただ、ワーキングプアをはじめとする貧困や格差は、私たちの社会を揺るがしかねない問題だという認識で正しいと思います。
あと、経済はリーダーがどんな価値観を重視するかによって取られる政策が変わります。小泉=竹中ラインの下では、経済における効率性が重視された経済運営がなされたことで、公平や平等という概念はないがしろにされた部分があります。その一端が、ワーキングプアに代表される格差の問題に表れているのです。
経済における効率性と公平・平等といった理念をどのように両立させていくのか、今後はそういった視点が大切だということを、私はこのブログを使って訴えていこうと思っています。
今後も有益なコメントをお待ちしています。
TORI
2007/01/19 22:55

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